名古屋市立大学脳神経科学研究所

SAWAMOTO LAB 澤本研究室 - 名古屋市立大学医学研究科脳神経科学研究所 神経発達・再生医学分野

SAWAMOTO LAB 澤本研究室 - 名古屋市立大学医学研究科脳神経科学研究所 神経発達・再生医学分野

成体脳内の神経回路の左右差を作り出す仕組み に関する研究についてプレスリリースを発表しました。

名古屋市立大学によるプレスリリース

本学医学研究科再生医学分野の澤本和延教授と岸本憲人特任助教らの研究グル

ープは、魚を用いた研究によって、成体脳内の神経回路の左右差を作り出す

仕組みを解明しました。この成果は、米国の科学雑誌ネイチャー・ニューロサ

イエンスに掲載されます(米国東部時間5 月19 日午後2 時)。

私たちの脳は左脳と右脳に分かれていて、それぞれの構造や役割に違いがあ

ることが知られています。これらの脳の左右差は、子供から大人に成長するに

つれてよりはっきりとしてくることがわかっています。しかし、成長とともに

右脳と左脳の違いを作り出す遺伝子についてはあまり良くわかっていません。

今回の研究では、ゼブラフィッシュという小型淡水魚を用いた実験によって、

成体期の脳内に存在する神経幹細胞から新しく生まれる細胞の運命を決める

Myt1 という遺伝子が右脳よりも左脳で強く働くことにより、嗅覚の左右差を作

り出している仕組みを初めて明らかにしました。

この仕組は、ヒトの脳の左右差の解明に役立つ可能性があります。

本研究は、本学の他、国立遺伝学研究所、トゥールーズ大学(仏国)が参加

した国際共同研究です。

<内容の詳細>

研究背景

私たちの体は一見左右対称ですが、利き手、利き足、利き目、利き耳があることから もわかるように、左右一対の身体(器官)のうちどちらか片側を好んで使用しています。 これは、成長とともに右脳と左脳に違いが生じ、特定の機能においては片側の脳の神経 回路が優位に働くようになるためと考えられます。これまでの研究によって、左脳・右 脳が機能分業することによって効率的な情報処理を行うことがわかってきましたが、左 右差を生み出す遺伝子や、その意義については十分に研究されていませんでした。そこ で、私たちは、遺伝子工学的な実験に適した小型淡水魚であるゼブラフィッシュ(学名: Danio rerio)を用いて、成体期において脳神経回路の左右差を作り出しているメカニズ ムを調べました。 研究成果 私たちは、ゼブラフィッシュの脳内で働いている多数の遺伝子を「遺伝子トラップ法」 という方法を使って、緑色蛍光タンパク質(GFP)で標識して観察しました。その結果、 幹細胞から作られる新しい神経細胞の運命を決定するMyt1 という遺伝子の働きが、成 長にともなって変化し、左脳の中の嗅覚に関係する部分で優位になるということを発見 しました。この遺伝子を持たない魚では、普通の魚よりも嗅覚が劣っているこ とから、Myt1 が嗅覚に必須な遺伝子であることもわかりました。 魚に利き鼻があるのかどうかを調べるために、成魚の片側の鼻に栓をして、好きな匂 い(アミノ酸)へ向かって泳ぐ行動(誘引行動)を調べました。右鼻に栓をしても誘引 行動には影響がありませんが、左鼻に栓を挿入するとアミノ酸への誘引行動ができなく なったことから、左鼻が利き鼻であることがわかりました。さらに、左鼻に栓 をしてから1週間経過すると、Myt1 が右側で強く働くようになり、アミノ酸への誘引 行動ができようになりました。このことから、魚は、利き鼻の機能を失った場 合に、脳内の遺伝子の働きを変化させて反対側の鼻を利き鼻に替えることができるとい うことがわかりました。 これらの実験によって、Myt1 が左脳で強く働くことによって、新しい神経細胞の産 生が左右非対称となり、魚の利き鼻が作られていることがわかりました。 成果の意義 この研究は、成体期につくられる嗅覚に関わる神経細胞の右脳と左脳における違いを 作り出す遺伝子を明らかにし、その嗅覚における意義を示したものです。脳細胞は生ま れた時にほぼ完成していて、年齢とともに適応能力が低下していくと考えられています が、この研究の結果から、成体になっても嗅覚に関わる部位に新しい脳細胞が付け加わ ることによって、右脳と左脳が持つ役割が変化することがわかりました。また、ヒトと ゼブラフィッシュではゲノムや脳の構造が似ていることから、ヒトの脳内における神経 回路の左右非対称性にも同様のメカニズムが関わっている可能性もあります。したがっ て、本研究の成果は、ヒトの脳の構造と機能の左右差の解明にも役立つことが期待され ます。

kishimoto press release fig1

今後の展開

本研究で用いた遺伝子トラップ法を大規模に行うことで、脳内の様々な神経回路で左 右非対称な働きをしている遺伝子の探索が可能になります。これによって、例えば、左 脳に言語野を作り出すメカニズムなど、未だ不明な点の多い脳の左右差形成の仕組みの 解明に役立つことが期待できます。

<掲載される論文の詳細>

掲載誌:Nature Neuroscience 電子版

題目:Interhemispheric asymmetry of olfactory input-dependent neuronal specification in the adult brain

著者:岸本憲人(名古屋市立大学)、浅川和秀(国立遺伝学研究所)、Romain Madelaine (トゥールーズ大学)、Patrick Blader (トゥールーズ大学)、川上浩一(国立遺伝学研究 所)、澤本和延(名古屋市立大学)

以 上

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澤本研究室

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Department of Developmental and Regenerative Neurobiology
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Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences

1 Kawasumi, Mizuho-cho, Mizuho-ku, Nagoya 467-8601, Japan

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