ニューロンの移動速度を調節する仕組み
Ota H*, Hikita T*, Sawada M*, Nishioka T, Matsumoto M, Komura M, Ohno A, Kamiya Y, Miyamoto T, Asai N, Enomoto A, Takahashi M, Kaibuchi K, Sobue K, Sawamoto K. (*equal contribution)
Speed control for neuronal migration in the postnatal brain by Gmip-mediated local inactivation of RhoA.
Nat Commun 5: 4532 (2014).
脳室下帯(V-SVZ)で新生したニューロンは、吻側移動経路(RMS)を通って脳内を移動し、嗅球(OB)で分化・成熟しますが、これらのニューロンを適切な速度で正確な位置まで移動させる細胞内分子機構については完全には解明されていませんでした。この論文ではまず、新生ニューロンの移動に必須の分子であるGirdinと相互作用する分子群の網羅的探索により、低分子量Gタンパク質RhoAの制御因子Gmipを同定しました。さらに、Gmipが細胞内での局所的なRhoA活性を抑制して新生ニューロンの移動速度を遅くし、嗅球における最終的なニューロンの定着位置決定や成熟後の樹状突起の投射パターンにも影響を与えることを示しました。これらの結果から、Gmipは細胞移動のシグナルを抑制して速度を遅くする、「ブレーキ」として働くことが示唆され、生後も継続的に新生されるニューロンが目的地に移動する際のメカニズムの一端が明らかになりました。
この研究は、博士論文のテーマとして始めました。それまで臨床医として過ごしてきた私にとっては初めての基礎研究であり、また、澤本研においては生化学的なスクリーニング手法を取り入れた初めてのテーマということもあり、匹田先生とともに試行錯誤を繰り返しました。なかなか結果が出ず、苦しい時期もありましたが、澤本先生をはじめ、スタッフの先生方の熱心なご指導と、多くの共同研究者の皆さんのご協力により、何とか世に出すことができました。完成までに5年以上を費やしましたが、最後まで諦めずに挑戦したことは、大きな自信になりました。この研究を通して学んだことを臨床に役立てることができるように、今後も精進したいと思います。(太田晴子)