名古屋市立大学脳神経科学研究所

SAWAMOTO LAB 澤本研究室 - 名古屋市立大学医学研究科脳神経科学研究所 神経発達・再生医学分野

SAWAMOTO LAB 澤本研究室 - 名古屋市立大学医学研究科脳神経科学研究所 神経発達・再生医学分野

傷害部へ向かって移動する新生ニューロンのトランスクリプトーム解析

Miyamoto T, Kuboyama K, Honda M, Ohkawa Y, Oki S, Sawamoto K.

High spatial resolution gene expression profiling and characterization of neuroblasts migrating in the peri-injured cortex using photo-isolation chemistry

Front Neurosci. 7:18:1504047  (2025)

 脳が傷害を受けると、脳室下帯で産生された新生ニューロンの一部が傷害部へ向かって移動することが知られています。本研究では、脳傷害後に傷害部へ移動する新生ニューロンはどのような特徴を持つのかを明らかにしました。解析には、空間トランスクリプトーム法の一つであるPhoto-isolation chemistry (PIC) 法 (Honda et al., STAR Protocols, 2022) を用いました。この技術により、特定の場所に存在する細胞が発現している遺伝子を調べることができます。我々はこの技術を用いて、脳室下帯に分布する新生ニューロンと、傷害部へ向かって移動する新生ニューロンの遺伝子的特徴を比較しました。その結果、窓外部へ向かって移動する新生ニューロンと脳室下帯に分布する新生ニューロンでは異なった遺伝子発現プロファイルを有していることを明らかにしました。傷害部へ向かって移動する新生ニューロンでは、傷害部への移動能や細胞死抵抗性に関わる遺伝子の発現が上昇している一方で、未分化状態の維持や細胞増殖に関わる遺伝子の発現が低下していることが明らかになりました。さらに、この細胞増殖に関連する遺伝子の発現低下には、傷害部から分泌されるTransforming Growth Factor-β (TGF-β) が関与している可能性を見出しました。本研究で得られた知見は、傷害を受けた脳に対する再生医療の開発に貢献することが期待されます。
私は学部1年生のころから澤本研究室のメンバーとして研究に取り組んできました。当初は自分のプロジェクトを持たず、大学院生の先輩方の研究をサポートする形で関わっていました。大学院に進学し自分のプロジェクトを持つにあたり、「傷害を受けた脳の再生を研究したい」「今後も発展が期待されるオミクス研究に携わりたい」と考えていました。そんな中で、さまざまなご縁が重なり、本プロジェクトがスタートしました。澤本先生や指導教官の久保山先生には、実験のトラブルシューティングからデータの解釈、論文の構成や深い考察に至るまで、未熟な私に対して丁寧かつ熱心にご指導いただきました。そのおかげで、本研究をこのような形にまとめることができました。また、共著の先生方やラボメンバーの皆様にも多大なご協力をいただきました。この場をお借りして、心より感謝申し上げます。(宮本 拓哉)

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