嗅球のニューロン新生の細胞特異的な臨界期
Kato Y*, Kaneko N*, Sawada M*, Ito K, Arakawa S, Murakami S, Sawamoto K.
A subtype-specific critical period for neurogenesis in the postnatal development of mouse olfactory glomeruli. (*equal contribution)
PLoS ONE 7 (11): e48431 (2012).
脳室下帯の神経幹細胞によって産生された新生ニューロンは、嗅球に移動した後、顆粒細胞・傍糸球細胞の2種類の介在ニューロンに分化し、嗅球の神経回路に統合されます。これらの新生ニューロンは、様々な嗅覚機能に関与することが報告されており、嗅覚神経回路におけるニューロン新生の維持・調節の重要性が示唆されています。新生ニューロンの分化・成熟・生存は、嗅覚入力の遮断によって抑制されますが、これらの変化が入力の回復によって消失する可逆的なものであるかは分かっていませんでした。この研究では、発達期のマウスにおいて、嗅神経の入力を直接受ける傍糸球細胞に着目し、一時的な嗅覚入力障害が、その後の傍糸球細胞の新生・嗅覚機能に与える影響を解析するとともに、嗅覚刺激の治療的効果を検討し、発達期の嗅球が持つ可塑性の特徴を解析しました。
生後早期の一時的な嗅覚遮断は、特定のサブタイプの介在ニューロン(カルレチニン陽性ニューロン)の新生を持続的に抑制し、嗅覚機能障害をひき起こしました。この結果から、嗅球のニューロン新生には細胞特異的な「臨界期」が存在することが明らかになりました。一方で、これらのマウスに生じたニューロン新生抑制・嗅覚機能の障害は、長期間の嗅覚刺激によって改善することから、積極的・長期的な治療介入の有用性が示唆されました。
この論文は、澤本先生、金子先生、澤田先生をはじめ、当時の基礎自主研修の学部生であった酒井君、伊藤君、荒川君など、本当にたくさんのお力を借りて完成しました。嗅覚刺激実験中は毎日のニオイ交換が必要で、休日には家族が寝ている早朝に長い道のりを往復しました(自分なりに必死だったため、あまりよく覚えていません)。6週間かけて作成したモデルマウスが、その後の一瞬の出来事で無となる切ない日々の繰り返しを経て、成果を得られた時の感動は、今でも忘れられません。澤本研究室での経験を経て、今の自分があること、そしてたくさんの方に助けられ続けていることを忘れず、私の研究テーマであった恒常性と可塑性の精神を持って、今後の仕事に活かし続けたいと考えております。(加藤康子)