嗅覚入力によるニューロン再生促進
Sawada M, Kaneko N, Inada H, Wake H, Kato Y, Yanagawa Y, Kobayashi K, Nemoto T, Nabekura J, Sawamoto K.
Sensory input regulates spatial and subtype-specific patterns of neuronal turnover in the adult olfactory bulb.
J Neurosci 31:11587-11596 (2011).
成体脳において、脳室下帯で産生された新生ニューロンは、匂いの情報を処理する嗅球へと移動して神経回路へと組み込まれます。一方で、古い嗅球ニューロンは常に細胞死によって除去されており、嗅球ではニューロンが入れ替わることで嗅覚機能を維持すると考えられています。しかし、神経回路が完成した成体脳において、古いニューロンが新しいニューロンと入れ替わるしくみは分かっていませんでした。
本研究では、生きたまま脳の中のニューロンを観察することができる「2光子レーザー顕微鏡」を用いて、細胞死を起こした嗅球ニューロンの場所に、同じ種類の新生ニューロンが再生することを明らかにしました。さらに、この同じ場所でのニューロン再生は嗅覚入力によって促進されることが分かりました。本論文で明らかにした結果は、成体脳において脳の構造を維持しつつ、感覚入力依存的にニューロンを活発に入れ替える効率的なメカニズムが存在することを示唆しています。
澤本研が名古屋市立大学にラボを構え、金子奈穂子先生や耳鼻科の加藤康子さんらが新たにスタートさせた嗅球プロジェクトに、大学院博士課程の学生として参加させていただきました。2光子顕微鏡の実験は生理学研究所・鍋倉淳一研究室へ通い詰めて立ち上げました。In vivoライブイメージングに夢中になり、データをまとめて意気揚々と論文投稿までこぎつけたのは良かったのですが、そこからはsubmission→rejectionの繰り返し…。J Neurosciにacceptされた時には、嬉しいというよりはホッとしたのを覚えています。澤本先生、金子先生に粘り強くご指導いただき、科学の世界で自分の結果を認めてもらうことの厳しさを、身をもって体験した一本です。(澤田雅人)