新生ニューロンのアストロサイトトンネル形成・維持機構
Kaneko N, Marin O, Koike M, Hirota Y, Uchiyama Y, Wu JY, Lu Q, Tessier-Lavigne M, Alvarez-Buylla A, Okano H, Rubenstein JL, Sawamoto K.
New neurons clear the path of astrocytic processes for their rapid migration in the adult brain.
Neuron 67:213-223 (2010).
脳室下帯(V−SVZ)から嗅球(OB)への新生ニューロンの移動経路であるRMSは、新生ニューロン(Neuroblast)の鎖状細胞塊はアストロサイト(Astrocyte)が形成するトンネルによって覆われています。このトンネルは、新生ニューロンのスムーズな移動に寄与していると考えられていますが、その形成・維持メカニズムは分かっていませんでした。この論文では、RMSを移動する新生ニューロンが忌避性のガイダンス因子として知られるSlit1を分泌し、その受容体であるRobo2を介して周囲のアストロサイトの分布や形態を制御してトンネル形成を誘導し、自身の移動経路を形成・維持していることを明らかにしました。
この研究は、私が「学位取得後も臨床医に戻らず研究者になりたい」と決意したブリヂストン寄附講座時代に始めたもので、人生の重要な転機となったため、とても思い出深いものです。落ちこぼれ院生だった私は、実験手技や関連論文の勉強など本当に細かいことから先生にご指導頂き、そしてノックアウトマウスと一緒に名古屋市大に引っ越して苦節4年、ようやくこの論文がアクセプトされました。
このSlit-Roboシグナルを介した新生ニューロンとアストロサイトの関係は、脳梗塞巣への新生ニューロンの移動にも関与しており、これは私の現在の重要な研究課題のひとつです。(金子奈穂子)