正常脳内と傷害脳内における新生ニューロンの移動メカニズムの解明および脳傷害を再生させる新規治療法の開発
Matsumoto M, Matsushita K, Hane M, Wen C, Kurematsu C, Ota H, Nguyen HB, Thai TQ, Herranz-Pérez V, Sawada M, Fujimoto K, García-Verdugo JM, Kimura KD, Seki T, Sato C, Ohno N, Sawamoto K.
Neuraminidase inhibition promotes the collective migration of neurons and recovery of brain function
EMBO Mol Med 10.1038/s44321-024-00073-7. (2024)
成体脳の脳室下帯の神経幹細胞から産生された新生ニューロンは、正常脳および傷害脳においても互いを足場にしながら鎖状に連なって移動することが知られています。しかし、一見同じように鎖状形成している新生ニューロンも正常脳では高速移動するのに対し、傷害脳内では移動効率が低いことが知られていました。なぜ、正常脳と傷害脳内を移動する新生ニューロン間にこのような違いが生じるのかは不明でした。この論文では、正常脳内の新生ニューロンの間には多くの非接着領域が存在しているのに対し、傷害脳では非接着領域が減少し、細胞接着が過剰になりすぎてしまうことが明らかとなりました。この非接着領域はポリシアル酸(PSA)によって維持されており、脳傷害によってPSAを切断する酵素ノイラミニダーゼが発現上昇することによって、新生ニューロンのPSAが減少してしまうことが分かり、これが傷害脳内における新生ニューロンの移動効率低下の一因になっていることが分かりました。そこで、ノイラミニダーゼを抑制する阻害剤として抗インフルエンザ薬を傷害脳に投与したところ、傷害部へのニューロン移動の促進、ニューロン再生、脳機能の回復が認められました。さらに、傷害脳への抗インフルエンザ薬投与によるニューロン移動促進効果は霊長類においても確認され、脳梗塞の再生医療への応用が期待されます。
この論文は、私が博士課程の頃から進めてきた研究プロジェクトをまとめたもので、約8年の歳月がかかりました。博士課程在籍当初は、この研究テーマを学位論文にすることを計画しておりましたが、博士課程の期間中では論文を書き上げるところまでは到達できず、2019年に論文化した別のテーマで学位を取得しました。長い期間かかってしまいましたが、自身で立ち上げた研究プロジェクトを無事に論文として形にできたことは、私にとって大きな経験であり、大切な論文となりました。この論文には多くの共同研究の先生方にご尽力いただきました。ご尽力いただきました全ての方に感謝申し上げます。また、私の思いを汲み取り、熱心にご指導いただきました澤本先生には大変お世話になりました。日頃から感謝の気持ちでいっぱいですが、改めてこの場を借りて、重ねて感謝申し上げます。最後になりましたが、お世話になりました研究室の皆様にもお礼を申し上げたく存じます。誠にありがとうございました。(松本真実)