脳梗塞後の神経再生メカニズム―神経細胞の移動促進により神経機能が改善―
Kaneko N, Herranz-Pérez V, Otsuka T, Sano H, Ohno N, Omata T, Nguyen HB, Thai TQ, Nambu A, Kawaguchi Y, García-Verdugo JM, Sawamoto K.
New neurons use Slit-Robo signaling to migrate through the glial meshwork and approach a lesion for functional regeneration.
Sci Adv 4: eaav0618 (2018).
この論文の要点は以下2点です。
1)脳梗塞後の脳内で、新生ニューロンはSlit-Roboシグナルを使って活性化したアストロサイトの突起を押しのけながら梗塞巣に向かって移動するが、十分には移動できずに停止し、成熟してしまう。
2)Slit-Roboシグナルを増強し、新生ニューロンの移動を促進して梗塞巣付近に分布させると、神経機能の回復も促進される。これまで再生効率の向上のために新生ニューロンの数を増やすことに焦点が当てられてきたが、分布位置の制御も重要であることを示唆した。
この論文の基となったデータは、RMSにおけるニューロブラストとアストロサイトの相互作用について解析して2010年にNeuron誌に掲載された論文に入る予定でした。私は博士課程の2年目から岡野研の澤本グループに所属し、4年生になるまでに論文2報の実験をほぼ終え、「プロの研究者」になる方法を模索していました。澤本先生に、グループを1年早く卒業する神経内科の山下さん、二宮さんや、脳外科の安達さんから中大脳動脈閉塞術(MCAO)を引き継ぐようにお声がけ頂いて、喜んで飛びつきました。思いのほかすんなり技術を習得し、手始めに、澤本先生が留学していた米国から持ち帰ったSlitノックアウトマウスを使って、脳梗塞後のニューロブラストの移動を解析することになりました。結構自信のあったデータだったのですが、論文が完成して共著者のArturo Alvarez-Buylla先生、Oscar Marin先生に読んで頂いたところ、お二人からMCAOのFigureは除いたほうが良いとアドバイス頂き、泣く泣く削除しました。それから苦節8年。書き切れないような苦労をしましたが、私に大型グラントと受賞とPIポジションを運んできてくれた、思い出深い論文になりました。(金子奈穂子)