脳脊髄液流が新生ニューロンの移動方向に与える影響
New neurons follow the flow of cerebrospinal fluid in the adult brain.
Sawamoto K, Wichterle H, Gonzalez-Perez O, Cholfin JA, Yamada M, Spassky N, Murcia NS, Garcia-Verdugo JM, Marin O, Rubenstein JL, Tessier-Lavigne M, Okano H, Alvarez-Buylla A.
Science 311:629-632 (2006).
私は、2001年3月から2003年1月までの間カリフォルニア大学サンフランシスコ校のArturo Alvarez-Buylla教授の研究室にポスドクとして参加しました。この研究室は、adult neurogenesisに関する重要な論文を多数発表していましたが、渡米前から私が特に興味を持っていたのは、幹細胞から生まれた新生ニューロンが鎖状の塊(chain)を形成し、それが成体マウスの脳室壁に沿って美しいネットワークを作りながら動いているという発見です。この鎖状のネットワークパターンは、成体脳でも再生できることから、脳内の何らかの情報が細胞の移動方向を決定していると思われていました。この論文では、このニューロンの移動方向が、上衣細胞の繊毛運動と、それによって制御される脳脊髄液流と一致していることを示し、脳脊髄液流が反発性シグナル分子の脳内における分布をコントロールして、細胞の移動方向に影響を与えることを提唱しました。
UCSFでの実験期間は2年足らずでしたが、帰国してから論文を作成し、掲載されるまでさらに3年間もかかってしまいました。辛抱強く応援して下さった慶應義塾大学の岡野教授、ブリヂストン寄附講座の皆さんに感謝しております。(澤本和延)
UCSF最後の日、送別会のあとで
右端より、Arturo Alvarez-Buylla教授、Kazunobu Sawamoto