虚血低酸素後の新生仔マウスの脳室下帯におけるオリゴデンドロサイト前駆細胞の産生
Kako E, Kaneko N, Aoyama M, Hida H, Takebayashi H, Ikenaka K, Asai K, Togari H, Sobue K, Sawamoto K.
Subventricular-zone derived oligodendrogenesis in injured neonatal white-matter in mice enhanced by a nonerythropoietic EPO derivative.
Stem Cells 30: 2234-2247 (2012).
周産期・未熟児医療の発展により、極低出生体重児、超低出生体重児など以前であれば長く生きられなかったであろう児も、普通の子供と同じように成長できるようになってきました。一方で、このような児は血行動態や酸素供給に破綻をきたしやすい不安定な状態で出生しており、様々な障害をきたす可能性があります。
未熟児の脳の虚血低酸素は、大脳皮質下から側脳室周囲の白質に傷害を起こすことが知られています。白質では、軸索が束になって走行しています。軸索の周囲にオリゴデンドロサイトが腕を伸ばすように巻き付いてミエリンを形成し、速やかな電気刺激の伝達(跳躍伝導)を可能にするとともに、異常な刺激の伝播を防いでいます。ミエリンの傷害は、永続的な神経学的障害を引き起こしますが、虚血低酸素による白質傷害の発症メカニズムは解明されておらず、現在まで有効な治療法は存在しません。
この研究では、遺伝子改変マウスやウィルスを用いた細胞標識により、虚血低酸素後の新生仔マウスの脳室下帯においてオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)が産生され、傷害部へ移動するという内在性の再生機構があることを発見しました。しかし、これらのOPCはオリゴデンドロサイトへの分化・成熟に障害があり、ミエリンの再生を誘導できないことが分かりました。
造血薬として用いられているエリスロポエチンは、近年その神経保護作用が注目されています。我々は、誘導体であるアシアロエリスロポエチン(AEPO)が、OPCの成熟を促進することを見出しました。AEPOの投与によって、白質障害モデルマウスの傷害部での新生OPCの成熟が促進され、組織学的・神経学的な改善が誘導されました。AEPOは造血作用がなく、小児に対しても高い安全性を有するため、小児白質傷害の治療に応用できる可能性があります。本研究は、「再生医療の実現化プロジェクト」の一環として、学内の複数の研究室の協力のもとで行われました。(加古英介)